ウィー・ウィリー・ウィンキーと眠りの妖精
- Adrian White

- 9月11日
- 読了時間: 4分
更新日:9月12日

みなさんは「ウィー・ウィリー・ウィンキー(Wee Willie Winkie)」というスコットランドの童謡をご存知だろうか?これはスコットランドの詩人ウィリアム・ミラー(1810-72)によって1814年に発表された歌だ。いわゆるマザーグースの1つにも数えられる。 ウィー・ウィリー・ウィンキーは子供部屋の眠りの妖精で、子供たちが眠る時間になると現れ、街中を走り回って窓をコンコンと叩いては、鍵穴から「子供たち寝たかい?もう10時だよ」と声をかける。
童謡の一部を部分を抜粋しよう。
オリジナルはスコットランド語だが、ここでは英語版を引用する。
Wee Willie Winkie runs through the town, Up stairs and down stairs in his night-gown, Tapping at the window, crying at the lock, "Are the children in their bed, for it's now ten o'clock?"
ちびのウィリー・ウィンキー君、町を駆け回る, 寝間着のまま階段を昇り降り 窓を叩き、鍵穴から声をかける 「子供達はベッドに入ったかい。もう10時だよ」
こうした子供部屋の眠りの妖精は、いわゆる子供部屋のボーギーとは真逆の性質を持つものだ。子供部屋のボーギーとは、子供たちが危険な場所に立ち入らないように、“脅し役”として語られる妖精のことである。例えばランカシャーに伝わる緑り牙のジェニーは、長い緑色の牙を持っており、悪戯好きの子供が淀んだ川に近づこうとすると、水中から手を伸ばして足首を掴み、そのまま水の中に引きずり込んでしまうとされている。つまりこの緑り牙のジェニーという妖精には、子供が危険な水域に近づかないよう怖がらせる役割があった。
一方で、子供部屋の眠りの妖精は、夜更かしする子供たちのまぶたを閉じさせるという、やさしい性質を持った妖精たちだ。おそらく、いつまでも夜更かしする子供を寝かしつけるのに疲れた子守たちにとっては、実に頼り甲斐のある存在だろう。
ウィー・ウィリー・ウィンキーが有名ではあるが、こうした眠りの妖精は他にも存在する。例えばランカシャーやイングランド北西部に伝わるビリー・ウィンカー(Billy Winker)だ。彼らは寝つかない子供の元に現れ、その眼を閉ざすのだという。
ドイツやヨーロッパにも、サンドマン(Sandmann)と呼ばれる睡魔が存在する。彼らは不可視の妖精であり、いつも砂袋を背負っているとされる。サンドマンの砂袋の中には人を眠らせる粉が入っており、夜更けになるとまだ起きている人間のもとに行き、その目に砂袋を投げ込んで眠らせるのだという。ウィー・ウィリー・ウィンキーやビリー・ウィンカーといった子供部屋の眠りの妖精とは異なり、サンドマンは大人たちも眠りに誘ってくれる。不眠症で悩む疲れた現代人には、案外よき味方なのかもしれない。
さて、ウィー・ウィリー・ウィンキーだが、これは完全にウィリアム・ミラーの創作なのだろうか?他の19世紀のスコットランドの詩人たちと同じように、地元に残る伝承から歌の題材を得たという可能性も大いにあるだろう。現にスコットランドにも比較的近いランカシャーでは、ビリー・ウィンカーという眠りの妖精が知られていた。であれば、実はウィー・ウィリー・ウィンキーもまた、ウィリアム・ミラーが題材とする前からスコットランドで知られていた伝承だったのかもしれない。夜泣きに苦労する母親たちを助ける眠りの精たちは、いったいどこからやって来たのだろうか?
Liminalにおいては、ウィー・ウィリー・ウィンキーやビリー・ウィンカーといった妖精は、下級の妖精であることは間違いないだろう。ウィー・ウィリー・ウィンキーは自分たちのことを歌にしたウィリアム・ミラーのことをどう思ってるのだろうか。むしろ童謡に登場させてもらえなかったビリー・ウィンカーたちの方が不満を持っているのかもしれない。
「あれはちょっと誇張してるよね。僕たちは実際にはもっと静かに窓をノックするし、もっと小さな声で囁くんだ」
子育てに励むリミナルズや魔術師の中には、こうした眠りの妖精と契約をして、子守りをさせる者がいるかもしれない。その場合、彼らにはどのような対価を払うべきだろうか?類型に則るのであれば、ビスケットやミルクといったものを部屋に置いておけば、ウィー・ウィリー・ウィンキーがやって来て知らぬ間に子供を寝かしつけてくれるかもしれない。もちろん、姿は見ないことだ。
シナリオフック
善意で子供たちを寝かして回っているビリー・ウィンカーが、とある民家の前で途方に暮れている場面に出くわすかもしれない。どうやら子供部屋には青銅製のブローチがあって、それのせいで中には入れないのだ。
シナリオフック
ウィー・ウィリー・ウィンキーの力を借りて子供たちの子守りをする隠されし世界のベビーシッターが、クルーのもとを相談に訪れる。なぜかここ数日前から、いつもの方法で呼び出そうとしても、ウィー・ウィリー・ウィンキーが現れなくなってしまったのだという。眠り妖精の身に何かあったのだろうか?それとも何かが原因で妖精を怒らせてしまったのだろうか?とにかく、ウィー・ウィリー・ウィンキーがいなくなった原因を突き止めなければならない。

