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ギリシャの隠されてなさそうで隠されし世界(第1回)

  • 執筆者の写真: Cedric
    Cedric
  • 8月28日
  • 読了時間: 9分

更新日:9月12日

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εια σου!

やあみんな。セドリックだ。

ギリシャはいいところさ。そうだろう?

4000年の歴史が積もる乾いた大地を吹き抜けるエーゲ海の風。

ああ、悠久なるパルテノン。デルフィに眠るアポローンの神域。そして美しきケファロニア。だがなんと言っても最高なのがアテネだ。なぜかって?そりゃイカしたクラブがあるからさ。ツィプロにラキヤ!ああ、やっぱり俺は地中海の酒が好きだよ。こっちへ来る読者がいたらぜひプシリ地区を案内させてくれ。朝まで飲もう。


おっと話が逸れたな。そんなわけで、今回はギリシャの隠されし世界について少しばかり紹介しようと思う。第1回はかのギリシャ神話にも登場する伝統的な妖精たちについて。第2回では、我々が生きる現代ギリシャ社会の隠されし世界と、そこに潜む存在や諸勢力について紹介しよう。この特集記事さえ読めば、ギリシャ旅行も怖くないはずだ。



神話に謳われた妖精たち


読者諸君はギリシャの伝承と聞いたら何を思い浮かべる?

あの恐ろしきテュポーン?それとも無数の首を持つ大蛇ヒュドラか?

ピュトーン、ラミアー、ゴルゴーン。うーんやけに蛇が多いな。


もちろん今のギリシャをオリュンポス十二神が跋扈してるなんてことはない。期待してたか?残念だったな。でも実際にイラクリオンの繁華街で、美男子に化けたゼウスとバッタリ鉢合わせるなんてのは嫌な話だろう?だが神話に謳われた怪物、つまり妖精たちの一部は、今でもこの美しい国に残っている。比較的数が多いのがサテュロスとニンフだ。こいつらには特にチェンジリングが多い。個人的にはラミアーのチェンジリングにも知り合いが多いのだが、彼女たち曰く総数は少ないらしい。



サテュロス


サテュロスといえば、上半身が人間で下半身が山羊の足をした半人半獣の妖精だ。成熟したサテュロスの頭には山羊の角が生えているが、大きくなるまでは結構小さい。それこそ帽子をかぶってると分からないくらいだ。そして悪戯好きで陽気で自由奔放で…意外と小心者。あとはワインが好きで、楽器の演奏が上手い。80年代後半には、サテュロスたちのプログレッシブ・ロックバンドがあったくらいなんだぜ。どうだ、話を聞く限りは良き友になれそうだろ?実際それが奴らの長所であり、短所でもある。奴ら際限ってもんを知らないんだ。誰彼構わず口説きまくり、すぐお持ち帰りしようとする。サテュロスにチェンジリングが多いのも頷けるよな。奴らを見てると、英国の妖精にはもっとこう、奥ゆかしさ的なものがちゃんとあるんだってことを再認識させられる。あーもちろん分かってる。ものによるな。


サテュロスたちの最大の妖精郷は、ギリシャ東部からブルガリア南部にかけて伸びるロドピ山脈と、その麓に広がる森の中にある。彼らを支配するのはペトレイアスという名の貴族(この英国的な呼び方が正しいのかは分からないが)だ。なんでも彼はディオニューソスに付き従ってインド遠征へ向かったサテュロスたちのリーダーの1人だったらしい。


俺の知る限り、サテュロスたちは現代社会によく溶け込んでいる。特に奴らはバーやクラブが溢れる都市部のナイトライフを人間以上に満喫している。サテュロスは幻術に長け、美男美女の姿を装って夜の街に繰り出すんだ。読者諸君も、アテネのクラブでナンパされることがあれば、ほいほいついていく前にまずはそいつの前頭部に角が無いかどうかを確認したほうがいい。これはマジのアドバイスだぜ。経験上のな。



ニンフ


本場ではニュンペーと発音するらしい。ニンフってのは大きな種族の括りであって、実際には棲む地域によってそれぞれ別種として扱われているそうだ。例えば水辺にいるのはナーイアス。山にいるのはオレイアス。森にいるのはアルセイス。谷にいるのはナパイアー、って感じにな。ものすごい種類が多い。なんせギリシャの魔術師たちの間には、かつてニンフ分類学という学問ジャンルがあったくらいだ。残念ながら、この手の隠されし世界の学問は、1945年のギリシャ内戦から、60〜70年代の軍事政権時代にかけて大きく後退したらしい。悲しいことだ。


ニンフは下級の妖精で、長寿ではあるが完全な不老不死の存在では無い。まあサテュロスだって歳をとるから、英国の妖精が特別不老なのかもしれない。ニンフは贈り物と引き換えに人間に恩恵を与える。病を治したり、道を教えたり、狩りの獲物を連れてきてくれたりもする。一方で怒らせると無茶苦茶怖い。特に自然精霊の一種であるニンフは、水場を汚すもの、木を傷つけるものなどに容赦がない。やり方もえげつなく、そうした無礼者を山や森で迷わせ遭難させたり、取り憑いて狂わせてしまうことも多い。特に森の中で泉を見つけた時は、まずナーイアスがそこにいないか注意してくれ。彼女たちの存在に気づかぬまま泉の水に触ったりすると、彼女たちは怒り狂い、そいつに取り憑いて精神を狂わそうとしてくる。ああ言いたいことは分かる。確かにこれは、幻視を持たないリミナルズにとっては極悪非道のトラップに違いない。


そして厄介なのは、彼女たちが恋愛気質であるということだ。特に人間の若者と恋に落ちやすい。読者諸君も注意したまえよ。ニンフたちの恋は生やさしいものではなく、その若者を手に入れたいと思ったら攫ってでも連れて行こうとする。サテュロスといい、だからこの国にはチェンジリングが多いんだ。ニンフのチェンジリングも、その母親の棲む地域によって呼び方が異なるそうだが、全く覚えられないのでここでは割愛する。


ニンフの妖精郷は、自然が残る渓谷や森、山の中に多くある。ギリシャで最大のニンフ勢力は「ヘスペリデスの園」と呼ばれる妖精郷だという(ニンフ分類学によれば、このヘスペリデスに住むニンフたちはヘスペリデスという種らしい。勘弁してくれ)。



その他の妖精たち


さて、サテュロスやニンフほどではないが、今でもギリシャで勢力を保っている妖精たちをまとめて紹介しよう。具体的にはハーピー、セイレーン、ラミア、ケンタウロスなどがそうだ。もちろん他にもいるが、出会う機会はそう多くないだろう。


上半身が女性、下半身が鳥の姿をしたハーピーたちは、妖精郷がイオニア諸島(特にストロファデス)とクレタ島に分散していることもあり、あまり本土で出会うことはない。ただし、ペロポネソス半島にも小規模なハーピーたちの妖精郷があると信じられている。ストロファデスにある妖精郷はケライノーというハーピーが支配している。ハーピーたちは食欲旺盛なことで有名だ。だからイオニア諸島の天候術師たちは伝統的に、食べ物と引き換えに風を制御する方法を彼女たちから学ぶのだとか。まあ基本的には残忍な種族だから、観光で行く程度なら関わらない方がいい。


セイレーンは知ってるよな?あの岩礁から美しい歌声で船乗りたちを惑わして、船を遭難や難破させることで有名な妖精だ。実は分類上は複雑な位置にいる妖精で、ニンフ分類学ではネーレーイスの一種とされることもある。ニンフとなんの関係があるかというと、実はセイレーンは元々ニンフから枝分かれした種族なんだそうだ。ニンフから分派したセイレーンのうち、1つは下半身が鳥の姿というハーピーのような妖精に、もう一派は下半身が魚という人魚のような存在になった。人魚のセイレーンのチェンジリングはその後ヨーロッパ各地に広がったようだ。セイレーンの主な妖精郷についてなんだが、実はギリシャじゃなくてイタリアにある。イスキア島とかが有名だ。エーゲ海諸島にも妖精郷があるとされているが、数も少なければ規模も小さい。そうそう、セイレーンは妖精郷の構成が少し特殊なことでも知られている。セイレーンはおおよそ2〜5人の姉妹で共同統治をすることが多いんだ。彼女たちのチェンジリングは魚的特徴を持つ場合と、鳥的特徴を持つ場合でその血統が異なるとされる。いずれにせよ魔性の声を持つことから、アテネの隠されし世界では、歌が上手い者のことを「セイレーンの娘」と言ったりするんだが、これがわりと当たったりするあたり、相当厄介な街だぜ。


ラミアーは、上半身が人間の女性、下半身は蛇の姿をした妖精だ。美青年の血を吸ったりすることから、吸血鬼の仲間だと考えられていた時期もあったが、今ではヴリコラカスのような吸血種(これは第2回で語ろう)として捉えられ、あのクソ吸血鬼のアンデッドどもとは違うものとして扱われている。子供を食ったり、眼球を取り出して再装着できる謎の能力を持っていたりと、古の妖精たちの中でも異才を放つ存在だが、その数は減少傾向にあるとされる。個体数が減っている要因については、17世紀に同じ吸血妖精であるモルモリュケーとの間で勃発した戦争の影響が大きいとされている。ちなみに注意して欲しいのだが、エーゲ海の吸血鬼の中には、変身術によって蛇の姿になる者たちがいて、そいつらはラミアシフター(ラミアーに化ける者)と呼ばれている。もちろんラミアシフターとラミアは全く別のものだ。彼女たちも迷惑してるだろう。


ケンタウロスはもはや説明不要だな。上半身が人間、下半身が馬の姿をした妖精だ。非常に好戦的で、まさに戦士といった気質の厄介な奴らだ。かつてテッサリア地方やアルカディア地方には巨大な妖精郷がいくつもあったが、古代ギリシャ人たちとの争いに敗れ、その大半は失われてしまっている。現在でもペロポネソス半島南部にいくつかの勢力が残っているが、あまり人間社会と積極的に関わろうとしない。一方で他の妖精に対して傭兵的な契約を持ちかけることが多いらしく、用心棒として他の妖精のもとに仕えるケンタウロスの姿を見る機会は多い。


最後に、せっかくなのでミノタウロスについて紹介しておこう。ミノタウロスといえば頭が牛で体が人間の妖精だ。彼らはクレタ島に迷宮(ラビュリントス)と呼ばれる妖精郷を築き、そこからミノス王に9年ごとに生贄を要求したことで知られている。ミノタウロスはテセウスによって討伐されたことになっているが、実際には魔術師たちを巻き込んだ大きな戦いが起こり、最終的にそれがミノア文明の崩壊に繋がったとも言われている。真実は定かではないが、ミノタウロスの妖精郷がクレタ島から姿を消してしまったことも確かだ。今ではゲームやコミックなんかに名前が出てくるくらい有名な妖精だが、実は歴史の陰に消えた、名前だけが残る妖精なんだぜ。まあ、今も地中海のどこかの島でひっそりと暮らしているのかもしれないけどな。


第1回はいかがだっただろうか?神話好きの読者諸君にとっては馴染み深い名前が多かったはずだ。実際にギリシャを旅していて彼らと出会うことは稀だが、注意深く観察すれば、現代都市の陰に息づく古代の妖精たちの気配を感じ取れるかもしれない。ちなみに妖精との接触は魔術結社であるピタゴラス賢人会によって原則禁止されている。もし現地で妖精絡みのトラブルに巻き込まれた場合には、彼らの他にデルフォイ神託局を頼ってもいい。彼らは現代的な組織だし、なんと言ってもピタゴラス賢人会は基本的に英語が通じないからな!


ではまた次回!

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